海峡ダービー

ホームのレッジーナは「海峡ダービー」のせいか、南部の荒くれ者の多いサポにも後押しされ、前半から前がかりになって、次々と攻めあがる。繰り返し、繰り返し責め(攻め)上がる。
しかし、この日のメッシーナは、ムティ監督の戦術が徹底しているのか、屈強で、脳みそまで筋肉がつまっているかのようなFWザンパーニャを前線にひとり残し、守備に人数をかけて、レッジーナの攻撃陣をゴールに向かわせようとさせない。
しかも、モチベーションが異常に高い。ホーム、レッジーナ以上に。
ムティは、過去、レッジーナの監督もしていたのだが、彼は、レッジーナの攻撃のツボに、しっかり蓋をした格好で、90分を戦おうとしていた。

  ゲーム開始前、ロッカーに怒号渦巻く。「海峡ダービーなんてくそくらえ!」

  物静かなムッティが、叫ぶ。

  叫んだ後。最後に、老マネージャーに「盃を持って来い!」と

  これまた叱るように叫ぶ。

  盃につがれた酒を、輪になった選手たちは飲み干す。

  順番の最後に、ムッティが飲み干す。

  飲み干したムティは、盃を右手に持ち、床の足元へとたたき割る。

  「死んで来い!」

  オトコ涙を噴出しながら、FWザンパーニャが右手の握りコブシを壁にたたきつける。
                                   (「老ムッティ海峡編」より)

前半、13分と41分に、カウンターから、簡単にメッシーナに少ないチャンスを得点される。荒れるホーム、レッジーナ・ゴル裏。
案の定、後半開始直前に、レッジーナのゴル裏から発煙筒が次々と投げ込まれる。
よくぞ、これほどまでに仕入れてきたものだ。しかも画面に大写しすると、これまた発煙筒がデカい。
次から次へとピッチに投げ込まれる。荒れるスタンド。これも”ダービー”のなせる業か。
しかし、主審は最後まで冷静だった。
後半は、ゴールの左・右を変えず、前半の状態で、攻守の位置を変更せず、後半のホイッスルを吹いた。これで一気に沈静化。確かに、味方のGKに向かっては発煙筒は投げられない。
冷静な判断(瞬時の)とは、こういうことをいうのだろう。

イタリアサッカーのゴル裏の、発煙筒に込められたサポの激しい愛、
煙に込められたもどかしさや儚さ(はかなさ)は、TV画面からも十分に伝わってくる。

  ダービーという名の戦争。
  憎しみ愛。
  未来永劫、続けるしかない戦い。

背番号10を背負って、俊輔は、奮闘する。この日、珍しくキックの精度が悪く、いい場面でもFKを譲ってはいたが、彼の左足には、もはやレッジーナサポーターの、海峡の向こうへの”怨念”が詰まっている。
俊輔、奮闘するも、後半37分、エステヴェスに交代し退く。
ヤナギは、後半40分、1トップ、ザンパーニャの代わりに、前線に孤立させられた。メッシーナではMFイリエフの攻守にわたった鋭い動きが目を惹いた。
9枚のカードを見せながら、主審は、この戦争を終焉させた。
南部のチームの激しい残留争いは、続く。
今シーズンのセリエAは、残り10試合となった。