指導者と言霊 Ⅱ

■男として誇りと名誉を賭けて
WBCほどの権威はないが最後の五輪開催となる大会の出場を賭けて星野さんが闘っていた。

野球日本代表はプロ野球日本代表ともいえるもので、イキのいい選手たちが今回も美しい一体感を作った。
中でも一大決戦となった韓国戦は鬼気迫るものがあり1球ごとに息を呑む展開となった。
3戦を通じて主審の技術の低さは気になったが、それでも黙々と受け入れる侍たちの立ち振る舞いは見事だった。
彼らは審判とは戦わず、自らを律し正に相手チーム(相手国)と闘っていた。
普段はプライドの高いプロの選手たち。名誉や誇りだけの為に、果たしてここまで一つになれるのか。
組織がひとつになり、一体感というような生易しい言葉では表現できぬほど強いカタマリとなった。そうなれば強い。
臨界点を超えた強い団結を見せられ、画面からもそれが熱く伝わってきた。
自分の為にとか生活の為にとかいった小さい目標ではなく。仲間の為に、球界の為に、国の為に、彼らは身を捨てて戦っていた。そして目に見えぬ形にすらならぬ誇りと名誉の為に。

韓国戦は本当に苦しい苦しい戦いだった。
白熱するほど、ゲームは相手よりも「勝ちたい」という気持ちが強い方が勝つ。
それらを乗り越えた選手たちのやる気と意気込みに、試合後に監督である星野さんが感動して涙していた。
■「言葉は言霊」その2.
しかし。
これだけは容易に想像できる。
ロッカールームで叫ぶ星野さんの言葉(言霊)がどれほど選手たちの魂を突き動かしたか。

星野さん。
阪神の監督に就任し、長く甘い体質を変革できずうまく成績を上げれない2年目の春。
伏見工業の山口先生(ラグビー部監督)を呼び先生の講演をスタッフ全員で、みんなで聞く。
先生の講演の言葉が言霊となる。
春先から見違える練習。1球に命を賭けた男たち。その年、阪神は優勝する。

個人的な話しで恐縮だが数年前にその山口先生と一日をご一緒したことがある。
恩師・大西鉄之助先生の思い出話しをしながら、先生、突然泣き出す。
車中二人っきり。助手席で先生は涙をこぼしながら大西鐵之助先生のお話しをされた。

ラグビーイングランド代表が初来日。
日本代表とゲームをすることとなった。体格差だけでなく技術も経験も、とても対等には戦えない相手。
ゲーム開始前のロッカールーム。
盃に水を注ぎ、お神酒を頂くように全員で回し飲み。山口先生の番。わずか数CCの冷たい水が五臓六腑に染みとおる。
今生の別れの盃。
最後に大西先生(当時日本代表監督)。一気に盃を飲みほす。
先生その空になった盃を、右手であらん限りの力で床に叩きつける。
「死んで来い!」

たったひと言である。


チームを結束させるのに魂を揺さぶるに、多くの言葉は不要である。
山口先生はそのゲーム、桜のジャージーを身にまとい無我夢中でイングランドの大男たち相手に互角に最後まで戦い尽くした。
大西先生の域にはまだ達してはいません、と。

言霊は魂を突き動かす。