天皇杯4回戦に思う。

ジーコ化はすすむ】
天皇杯の結果や、4回戦・数試合のゲームの戦いぶりをTV観戦して思うのだが。日本のサッカー界全体が「ジーコ化」している、と思った。
■変節期
Jリーグは発足以来12年が経過する。日本にプロサッカーチームができて以降、そろそろ新たな構造変化の段階(ステージ)にきているのかも知れないが、13年目の来季は、J1が2チーム増え、J2にも新たなチームが参入する。
天皇杯は元々、一発勝負。これまでも下位のチームや格下と言われるチームが勝利してきた。しかし、今季の4回戦ではなんとJ1チーム16クラブ中、7チームが敗退してしまった。

天皇杯4回戦の結果】
1.浦和(J1)3−1福岡(J2、4位)
2.横浜FM(J1) 2−1 山形(J2、3位)
3.G大阪(J1) 3−1 鳥栖(J2、10位) 
4.磐田(J1) 3−2 佐川急便東京(JFL8位)

5. 市原(J) 1−2V 札幌(J2、12位)
6.名古屋(J1) 3−0 ホンダFC(JFL3位)
7.鹿島(J1) 1−0 水戸(J2、9位)
8.FC東京(J1) 1−0 仙台(J2、7位) 
9.東京V(J1) 2−1 京都(J2、5位) 
10.新潟(J1) 2−3 湘南(J2、11位)
11. 神戸(J1) 2−3 川崎(J2、1位)
 
12. 大分(J1、28) 2−1 甲府(J2、6位)
13. 広島(J1、27) 0−1 横浜FC(J2、8位)  
14. 清水(J1、26) 0−1 大宮(J2、2位)
15. 柏(J1、24) 0−1 群馬FCホリコシ(JFL7位)
16. C大阪(J1、19) 1−2 ザスパ草津(JFL2位)

*上から年間順位の順。太字は4回戦敗退のJ1クラブ(カッコ内は、年間勝ち点数)

もちろん、それぞれのチームは、賜杯目指して戦ってはいるのだろうが。おそらく、主催する上部構造であるサッカー協会はじめ、J1クラブに勝利したチームでさえ、このような”事態”は想像していなかったものだと思う。
このような事態を「流動化の時期」あるいは「変節期」と表現するのが正しいのかどうかわからないが、この天皇杯における事態の”流動化”と、新たな構造的変化には注目すべき現象かもしれない。
■常勝チームの変化
ここで、上から、順に1位から4位までを上位チーム。それ以下を中位、12位以下を降格を争う下位チームと、一旦分類してみる。
天皇杯4回戦は、中位以下のチーム、特に降格争いのゾーンに位置するクラブの苦戦が目立つ。
上位は4戦全勝、中位は、4勝3敗。下位グループに至っては、1勝4敗である。
またはJ1を、二つのグループに分けることもできる。
とすれば、1〜9位のクラブと、10位以下のクラブに分けることができるかもしれない。その場合は、上位は、市原を除くと順当に5回戦進出であり、10位以下は、大分を除くと全てのチームが4回戦で敗北したことになる。
*ちなみに、J2のクラブは、3位山形〜7位仙台までが4回戦敗戦した。いずれもこれまでの昇格争いのためにそこに集中し若干の疲弊があるのかも知れない。

チームの成長、凋落は選手層の厚みと主力選手の成長とともにあるだろうし、指揮官をはじめクラブの戦略強化が順位に現れるとすれば、今シーズンの順位による区分けは一過性のもので非常に流動的であり、来季はまだまだ変動があるだろう。ナビスコを勝ったFC東京は、このままいけば常勝チームへと変貌していく期待感を抱かせる。
変わりに、J創設以来の常勝チームであった鹿島や、97年以降ドゥンガを擁し常勝チームへと変貌した磐田は、その座を降りようとしているように見える。

クラブの強化戦略次第では、このようなかって常勝チームであったクラブがJ2降格へと凋落していく可能性が今後ない訳ではない。浦和や横浜Fのようなクラブと同等以上の力を持つようになるには、付け焼刃の強化戦略で短期間でできる訳がない。
また、常勝チームとは、今回のようにJ2やJFLのチームと対戦し敗戦する可能性が限りなくないクラブをいうと思う。危なく5回戦進出を果たせなくなりそうだった磐田を含めて上位クラブは、順当に5回戦進出を果たした。
天皇杯の位置づけ

Jリーグは、今の時期はシーズン終盤。
天皇杯のシーズンは、通年は元旦の決勝に向けてリーグ終了を前後してJ1チームが参加して開催されてきたように思う。しかし今季は、時期的にはそれより早く始まった。
J1クラブの上位チームは、土壇場を迎え浦和レッズが最有力ではあるが、リーグの優勝目指して戦っている。下位は、降格だけはさけたいと懸命だ。現在は、その真っ只中にある。
様々の理由で、今回のような日程になったのであろうが、私は今年のような時期はよくないと思う。リーグ戦での結果が出て、来季に向かってのチームつくりを考える中で進行される方が天皇杯にも集中できるだろうと思うのだ。

J1チームにとっての天皇杯は、84回のその歴史ある経緯から見てもその優勝チームはそれ相当の栄誉を受け、その”名誉度”という意味では、カップ戦以上のものがあるのかもしれない。
かっての日本サッカー界は、国内においてはあくまでも天皇杯がその頂点にあったと言ってよい。

1921年に優勝した、東京蹴球団以降、サッカー界そのものが学生を中心としたクラブがその中心であったように優勝チームもそれと同様であったが、64年以降は実業団のクラブが優勝の覇を争ってきた。
私自身の天皇杯初観戦は、1971年、元旦、快晴の国立競技場での三菱重工対ヤンマーのゲームであった。当時から日本一を決めるチームとしての戦いは天皇杯をおいて他にはなかった。
92年J創設以降は、日産FC横浜Mをはじめとしてその時点の「強豪」と言われるJクラブチームが優勝している。

ゴルフでいえば日本オープンに日本プロを重ね合わせたような意味を持つのだろうか。また各地域の代表や大学、高校のトップチームも参加できる、欧州各国のリーグやカップ戦とは違うクラシカルな特別な意味を持った選手権杯である。
■モチベーション
今回J1クラブと戦い結果を出したチームの選手たちのモチベーションの高さは、尋常ではないように感じる。日本サッカー界の選手層の広がりとともにJFLにもJクラブを経験した選手たちが多くなっている。彼らのJ1クラブへの対峙する意欲は個人的挫折感と裏表なのかも知れないが、J1チームが数名の選手を落として戦ってイナせる(相撲用語)ほど、実際には”階層差”はないのだろう。特に、一発勝負においては。
J1下位とJFLまでのチームは、このゲームに対する準備と取り組みと、それに加えて需要なのは、モチベーションの高さのような気がするのだ。

しかし、J1上位のクラブだけは違う。

その点、優勝劣敗の世界については、全く違う位相を作っているのかもしれない。
カースト制度士農工商のような、差別的社会にも似た位相の違い、とでも言おうか。

選手で言えば、”セレソン”(代表に常に選ばれる選手たち)と”その他大勢”の選手。

これは、ジーコの概念から言えば、比較しようにもできない「あの選手は全然違う」=”絶対差”の世界とでもいうべき世界。相対差は比較対照できるが、絶対差は、それさえも許さない位相の違い。
華やかな舞台で、強烈な緊張感の中を戦い、国を挙げて戦う代表チームの選手は、「選民された」選手でなければならない。これがブラジル的セレソンなのだろう。
そして、セレソンでない層の選手のモチベーションは、高めようにもそのベクトルは代表ではない。これらの選手を抱えたチームは果たしてどのように選手のモチベーションを高めるのだろう。
ジーコ
私は、結果は出してるように見えるが、ジーコジャパンにおける日本代表の選手選別の手法には、全く賛成できない。
ジーコは個人的に好きだが、代表監督として他の監督と比して劣る見方をしているのがこの部分なのだが、どうやら頂点に立つべき日本のサッカークラブの構造そのものが、良かれ悪しかれ現状は「ジーコ化」しているように見えるのだ。

自由な競争、新たな血の導入、全体の底上げ。選手選別における緊張感の創造。
日本代表が規範であるなら、頑張って規範に近づくことが選手のモチベーションを高める。そのことが全体のレベルを吸引し、全体の底上げに繋がる。

ジーコはその手法は取らないどころか、その考えは理解したにしても決して実行しようとはしない。
どれほど活躍したとしても、選ばれし選手以外は、その他大勢なのだ。大黒(ガンバ)や村井(ジェフ)のように。

強豪クラブ以外は、それほど優劣のないその他のクラブ。一部を除いて、混沌とした状態。
それは強烈な個性を持った選手を数多く抱えるかどうかの差かも知れないが。
高いモチベーションは前提にあったにしても、組織としっかりした戦術があればJFLでもJ1下位とは十分に戦い一発勝負で勝つことができる。しかし、強力な個性と経験を有したJ1上位のチームにはどんなに組織化しても選手の個の力関係がはっきりしている以上歯が立たない。

ジーコの代表チーム作りの狙いがそうであるなら、現状の代表のあり様と、クラブチームの現状は良く似ているとも言える。
J1とJ2の大幅な入れ替え、またいずれJFLの主クラブはJ3へと編入されるのだろうが、J1、J2、将来のJ3の、互いの入れ替え戦が積極的にできるようになれば、更なる裾野の広がりで、現在とは状況が変わってくるのかも知れない。
この度の天皇杯4回戦ほど、未来に対して多くのものを示唆し、今日を考えた機会はなかったように思う。