彼は ステージの上で寝ていた。
椅子に座り
いつものように ギターを抱いて
つい今しがたまで 唄っていたというのに。
観客は知っていた。
何もかも。
そして うつむいて眠ってしまった彼が
起きるのを静かに待った。
彼が起きるのを ジッと待った。
合掌
ワタル氏逝く。静かに。
渡ちゃんは分かっていた。
みんなの優しさも自分の寂しさも。
一人一人が音楽なんだということを。
いい歌をいっぱい歌ってくれた。
渡ちゃんは歌いつくした。
耳を澄ませばいつだって声が聴こえてくる。
僕は悲しくなんかない。
(早川義夫氏ー4月18日付朝日新聞「高田渡さんを悼む」より)