「負けない」気持ち

[J1第10節鹿島ー福岡]:鹿島スタジアム

[鹿島0−1福岡]
個人能力と経験に勝る鹿島。といってもボランチのふたりは増田と青木。
彼らは若くて十分に有能な素材ではあるが。強豪チームと言われるG大阪、浦和と比して現在の鹿島の穴はボランチである。
アウトゥオリも課題と思っている筈だが、鹿島も磐田も全盛時代はボランチが強力であった。
タクトを振るう小笠原が海外へ出れば一番に浮き上がる課題でもある。

先取点は、グラウシオの突破からのクリアミスを、20歳を迎えたばかりの城後がゴール。
守りの時のポジショニングはまだ学ぶ必要があるが、城後は本当に成長を見せている。彼の持ち味が十分に出た先制点であった。

このゲームは序盤からアビスパの運動量に基づいた激しい守備組織で中盤を制していた。

『まず今までの硬い守備、相手に攻撃を作らせない守備はよかったが、今日は全然ダメだった。また中盤を支配されたこと。』(試合後のアウトゥオリ監督)

[鹿島1−1福岡]
鹿島の強さは、セットプレーと日本を代表する右足を持つ小笠原の技術にある。
もうひとつの鹿島の強さはサイドからの攻め。しかしこの日のサイドは疲れからか内田篤人にキレがなく左SBの新井場も怪我で早々に交代。
立ち上がりから鹿島にとっては非常に悪い流れであった。が、それを”断ち切る”小笠原のFKを基点にしたアレックスのゴールであった。

それにしてもこの日の水谷はいつもの水谷ではなく、セットプレー時のポジショニングもDFとの連携も不安定であった。

時たま彼は神になる。
個人的には、次の世代の代表に相応しいGKの一番手候補でもあるのだが。
水谷の思い切りの悪いプレーは最後まで目についた。

[鹿島2ー1福岡]
アビスパは、鹿島相手でなくとも現有戦力では3得点は無理というもの。
このミスがらみの失点で非常に苦しくなった。

”攻撃的に守備組織をする”ことが売りのチームが、受けに回るといいことは何もない。
視野の広い小笠原のパスは新井場に代わって交代出場した石川へ。パスを出した小笠原を褒めるべきかも知れないが、実はこの時の石川の余裕のクロスは防げた場面である。

中村北斗の石川へのアプローチは余りにも遅い判断。フリーで余裕の俊足石川は当然ながら良いクロスを上げる。
北斗のディシプリンに欠けたプレーでゲームは非常に難しくなってしまった。

新潟に完封できたのは全員で集中ししっかり守ったからに他ならない。ひきこもることのない守り方で。
この失点ぶりは、少しも走らない集中力に欠けた場当たりプレーが続いたナビスコ・浦和戦の空気を引きずっていたように思う。

[鹿島3−1福岡]
前半に追い越されたあたりからアビスパは受けにまわる。
バクスタ中央から見ると、どうやらボランチ城後と右SB北斗の連携・受け渡しが良くないようにも思える。

北斗は気持ちの強い選手である。21歳の彼は若いし追い込まれて力を発揮する。レギュラーを取った気になってはいけない。
それと城後の2列目からの攻撃を生かすのか、布部の優れたポジショニングと気持ちの強さとリーダーシップを買うのか、そろそろ松田さんも答えを出す時期にきている。

そして松田さんは2失点して賭けに出る。ただでさえ不安定なディフェンスを敢えて無視して中盤をダイヤモンドに。鹿島を甘くみる松田さん。
J2相手じゃあるまいし、これは強豪チームに取る布陣ではない。松田さんも時たま判断を誤る。
城後に代えて宮本を左SBに。布部でなく、だ。中盤の底にホベルトひとり。
これでアウトゥオリは喜ぶことだろう。

3点目を奪った鹿島の田代は、ゲーム半ばからアビスパセンターバック千代反田にも金古にも負けないようになった。元々彼の高さは尋常ではないのだが、ある時間からふたりのセンターバックに余裕を与えなかった。
田代は、大分や鳥栖で見た頃の田代とは随分違って成長している。彼に3点目を取られてこのゲームは終わった。

そして、このゲームのポイントは3失点目を失うプロセスにある。

アビスパは、少ない失点が特徴でもあるが、効果的なシュートに至る流れを断ち切ることにある。
決して「シュートされない」のではなく、シュートに至る直前のプレーを守備組織で封じること。

[鹿島4−1福岡]
鹿島はボレンチに本田を入れると落ち着きが出る。
そしてセカンドボールが見事に彼の足元へ来る。

電柱好きな松田さんは、息詰まりを打開するべく予想通りに川島を最前線へ。しかしこれもサイドからの攻撃があってこそ。
川島は良い選手だがJ2相手なら前線でボールもさばけるのだが。後半は守りが安定しないから良いボールは前線へは来ない。

益々強固になるひきこもりの鹿島。そして後半35分、敗北感漂う時間に変態チックな野沢の見事なゴール。

4−1は、勝者のメンタリティが未だに残るチームと、未経験ゾーンの多い成長過程のチームとの大きな差であろうか。

そして、技術でも経験でもない「負けない」という気持ちの差。