ことば


アナウンスが騒々しくなって代表戦がツマらなくなった。いや、民放の代表戦番組そのものから遠ざかるようになってしまった。
例え稚拙な指揮官を置いていたとしても、それでも代表チームを応援したい気持ちは少しも変わらないのだが。
代表番組をプロレス番組のノリでやり始めて何年になるだろうか。
言葉に人を突き動かす力がないから、同じフレーズを叫ぶしかないのか。放送側に知性が欠落しているから画面が陳腐に見えてしまうのだろうか。
著書より山本浩さんの言葉を拾ってみた。

『東京・千駄ヶ谷の国立競技場の曇空の向こうに、メキシコの青い空が近づいているような気がします。』(85年、メキシコWCアジア東地区最終予選、対韓国代表戦)

カタールの暑い太陽はすっかり影をひそめました。今は、肌の火照りよりも、胸の内を駆けめぐる熱いものを強く感じます。』(93年、米国WCアジア最終予選、対サウジ戦、会場はドーハ)

『声は、大地からわき上がっています。新しい時代の到来を求める声です。すべての人を魅了する夢、Jリーグ。夢を紡ぐ男たちは揃いました。今、そこに、開幕の足音が聞こえます。』(93年、J開幕ゲーム、V川崎ー横浜M)

『あれから、4年の歳月が流れました。胸に宿るものが、今またこの瞬間に燃え上がろうとしています。国立競技場に吹いているのは、西からの湿り気を含んだ風。遥かにフランスを想いながら、長い戦いのはじまりです。』(97年、フランスWCアジア最終予選、対ウズベキスタン戦)

『声は届いています。遥か東の彼方から、何百万何千万もの思いが、大きな塊になって聞こえてくるようです。長かった道のりでした。本当に、遠かった道のりでした。日本の、世界の舞台に初めて登場するその相手は、アルゼンチン。世界が注目するカードです。』(フランスWCグループリーグ第1戦、対アルゼンチン)

相方は松本育夫さんであったり、松木さんであったり、加茂さんであったり。
山本さんの仕事はどれもまさしく心に響く放送ですが、個人的には、99年の1月1日、天皇杯決勝の中継がもっとも心に残ります。
消滅の道を辿った横浜フリューゲルスの最後のゲームでした。
「メキシコの青い空」(山本浩著・新潮社)