一皮もふた皮も剥けた彼がそこにいた

J1第9節[柏レイソルVS鹿島アントラーズ]1−0で鹿島。
「鹿島スピリット」というものがあると仮定すれば、昨季までは鹿島スピリットを体現していた選手は、センターバックの秋田だった。
秋田はチームの若返りのために0査定され、彼の故郷である名古屋へと新天地を求めた。
今季、鹿島はセレーゾ監督と契約継続し、若返りを図ろうとしている。若手へと体質改善すべくこれまでのゲームを消化していった。
しかし、ゲームを見ても、何故か物寂しい気がしていたのは私だけではないだろう。何故なんだろう。一体、この空虚感は何なんだろう。ずっと感じていた。

5月15日、国立競技場、対柏レイソル戦。
試合は、下平と明神の両ディフェンシブハーフの積極的なプレスと彼らを中心とした守りが良く効いて、これまでの失点の多さが嘘のように、鹿島の攻撃陣を食い止めていた。攻撃では、玉田の切り返しやスピードに乗ったボール運びで、チャンスを作り、むしろ柏が押し気味といってよかった。
鹿島も、若武者増田や本山らが作るチャンスもいくらかはあったが、なかなかゴール前の壁は厚かった。
もちろんGK曽ケ端、南の頑張りと好セーブもあって両者譲らない、拮抗し引き締まった好ゲームとなった。

そう、後半20分過ぎの”真打ち”登場までは。

彼は、痛みと、アセリと、苦悩をひとり背負って、長い期間、リハリビを頑張ったに違いない。
ナイジェリアユース、シドニー五輪、アジア杯、コンフェデレーション杯、02年WCと、彼はどこの誰よりも長く最前線に立ち、肉体を酷使しながら”第一戦”を張ってきた。
そういう意味では、彼ほどエリート街道を歩いてきた選手はいなかったのだが、しかしやがて神は、頑張った代わりに、余りにも痛い休養を彼に与えてしまったのだ。
左ひざ前十字じん帯断裂および左ひざ外側半月板損傷で「全治6カ月」。
自分の意のままにならない長期欠場を余儀なくされた中田浩二は、259日間、何を思って頑張ってきたのだろう。
そう、入念に準備してきた彼は、この日、後半途中から出場することとなった。
今日、ピッチに立った彼の怒涛の表情は、これまでの彼とはまるで違っていた。
鹿島スピリットを身にまとったサムライが、ピッチに帰ってきたのだ。

試合終了後、サポーターの声援に向かって、深々とアタマを下げる彼の姿には熱く感じるものがあった。そう、ハセや秋田がやってたように。

「長かったねー。9カ月」。リハビリ担当の安藤貴之フィジオ・セラピストが号泣する姿を見つけると抱き合って涙ぐんだ。
「それでも絶対に前向きな言葉しか口にしない。本当に強い選手だと思いました」(サンスポ)