リーダー論Ⅳ

数日前に手にした本を、仕事や用事の合い間にようやく読了した。(追記あり
【信は力なり】出版:旬報社/山口良治

山口良治]:福井県出身、伏見工ラグビー部総監督。ラグビー日本代表キャップ数13、伏見工での熱い指導ぶりがドラマ「スクールウォーズ」のモデルに。80年、NHKドキュメンタリー「泣き虫先生と60人のラガーたち」。NHK「プロジェクトX」で紹介され反響大きく再放送数回。01年全国高校ラグビー大会でV3。「信は力なり」以外に、著書に、「17歳を語る」「気づかせて動かす」「夢を活かす」「俺がやらねば誰がやる」

ラグビー部室にはタバコの吸殻が転がり、授業中の教室ではトランプ麻雀。京都府下ではバイクの事故件数NO.1。荒れ果てた工業高校にラグビーというスポーツを通して、人としての誇りや優しさを伝えることによって学校を立て直していく。
狭いグランドの放課後、野球部も陸上部もラグビー部もと多くのクラブ活動(部活)が入り混じりスカウトもできない公立高校。わずか2時間の部活。山口先生の熱情で生徒たちのやる気やモチベーションを高めていく。激しい練習の中のその指導の中心にあるものは、人としての”優しさや思いやり”。元日本代表大八木や、前ラグビー日本代表監督の平尾は教え子。
とても感動的な良質の本だと思います。
山口先生がもっとも影響を受けた恩師の話しには、指導者として、選手たちの限界を超えた力を引き出す手法が論じられています。その名も、大西鉄之祐監督。
ラグビー発祥の地、イングランド代表が初めて日本の土を踏み、ラグビー日本代表と初対戦する時の話し。
1万5千人収容の秩父宮ラグビー場に2万3千人の観衆が詰めかけ、観客席には入りきれなかった観客がタッチライン沿いにびっしりと座っているほどだった、という。

『そうした試合前のグラウンドでの熱気と興奮をはるかに超えた心的状況が、われわれのロッカールームではつくられていた。
「日本ラグビーの浮沈、この一戦にあり」
大西監督は、盃(さかずき)に水を注ぎ、選手たち一人ひとりに飲ませた。そして最後に主将に注がれた盃を飲み干すと、その盃を床に叩きつけた。
「死んで来い!」
大西監督の檄は、私のすべてをかけて戦う気迫に拍車をかけた。あとの14人も同様であった。
もう痛いとか苦しいとか、そういった人間の感情をはるかに超越した境地、そこまで気持ちを追い込み、高められたという経験は貴重なものであった。
そして、グラウンドに駆け出していくと、スタンドは超満員。満場の拍手と声援で迎えられ、武者震いするような興奮のなかで試合開始のホイッスルが吹かれた。それからの八十分、あれほど集中し疲れも痛さもまったく感じなかった試合はなかった。』(「信は力なり」より)

結果は、3対6のノートライの激闘。タックルにつぐタックル。国際試合でノートライというのは大変珍しく、ましてや相手は母国イングランド代表。
1971年9月。「接近・連続・展開」の名監督・大西鉄之祐監督に導かれオールブラックス・ジュニアを破った年の3年後である。
・・・
大西監督のように、国を上げて戦うチームの一流の指導者は、何ら迷うことなく、選手を追い込み、選手のやる気を起こさせ、選手の可能性を無限に引き出す「言葉」を持っていないといけない、と思う。
また、山口先生もその著書の中で書かれているが、出場する選手を後押しするだろう控えの選手、マネージャー、父兄、関係者への配慮や、思いやりを持てないと真の選手は育たないと。
3軍や4軍の選手にまで、伏見工ラグビー部での経験がその後の人生に活きるような、指導者としての関わりを求めている。



来週、その山口先生ご夫妻にお会いする。