「新しい舞台を用意する前に」その3.

■「結果なんです、勝負は。」 

 川淵 基本的に(トルシエが)日本人を一段下という感じで見てるところはありました。だから選手に対して敬意を払わない。そういう意味で僕自身が不愉快に思うこともありましたが、彼のいいところを挙げれば、日本人の監督ならそこまで強く言えないことを彼は言うことができ、無理やりやらせた。そのことがW杯のベスト16に残った理由の一つでもあるんです。命令されたことを受け入れる方がやさしいんですね。自由にやりなさい、自分で判断しなさいといわれる方が難しい。答えは一つ、これをやれというのがトルシエの代表チームのあり方でした。 

 石原 なるほどね。 

 川淵 でもそれには限界があって、日本はホームでベスト16に入ったけど、ドイツW杯で、その上は望めない。監督の言う通りにやれ、他のことは考えなくていいというやり方は、限界がある。二〇〇六年のW杯では選手が自らの考え方で、お互い理解しあえなければ、いい試合ができるわけがない、というのがジーコの考え方なんですね。だからジーコは、選手に対する敬意と信頼を最初から持ってたわけですよ。ただ、それまで頭ごなしにやられてたのがジーコに代わり、あまり細かいこといわず、かなり選手の自由に任せたことで、選手の中に監督に対するリスペクトが一時、減ってしまった。それがアジアカップ(中国)で優勝したころから、ジーコの言うことが理解されだした。三年かかってジーコは選手の信頼と敬意を本当に勝ち取ったんです。 
 石原 それは一種の人間論、人間観、自我の問題だな。僕は、外圧のトルシエに言われたフォーメーションを規格の中で従えばいいというやり方は嫌いだな。ジーコのように、いわれなくても自分で発奮し、本当のリーダーの識別で許可するという人間関係の方が強くなると思いますね。 

 川淵 そこをジーコが目指しているんだと思いますが、初めはこちらも前のトルシエとあまりに違うものですから、選手のモチベーションその他について心配しましたよ。時間がものすごくかかることなんですね。 

 石原 それは本当にいい教育だね。 

 川淵 トルシエは毎晩のようにミーティングをする。でも、いくらこと細かくいっても試合九十分のすべての状況は説明できないでしょう。ジーコは、試合前に三十分しかミーティングをやらない。それを僕はいつも見ているから、うまいポイントを指示している。言っていることが大体試合に出てくるんですよ。ではなんで普段の練習のときに細かく言わないのか聞いたら、いや、試合前の三十分のミーティングで言うことが一番選手に与える影響が大きいんだと言うんです。指導力というものは奥深いところにあるんですね。でも、途中で負けて更迭していたらジーコは無能な監督だった、それを決めた川淵はより無能であるということになったんですけどね。 

 石原 こういったものは結果だからね。 

 川淵 結果なんです、勝負は。 

*昨年8月22日、産経WEBに掲載されたお二人の対談。
石原は都知事、川淵は当時舌好調だったサッカー協会会長。

多くの方々が仰るように「ジーコトルシエか」という命題は、どこまでいっても不毛だと自分も思う。
両方の時代背景やその状況、置かれた立場が全然違うからだ。

しかし何より重要で大きな問題は、(私が好きなw)ジーコの個人的な資質についての冷静な考察もしないで、トルシエが”がんじがらめに選手を縛る”のは許せない!だからジーコの”自由を重視するサッカー”が必要(優れているしこれからもこの延長で)という結論につながってしまうことなのだ。

あくまでも個人的に、ですが、私は「この4年間はブランド好きの川淵氏のトルシエアレルギーに端を発している」と見ています。

万が一この4年間の「総括」もなく何もなかったように今のまま彼が居座るなら、川淵氏のトルシエアレルギーをぬぐい去ることと、公式試合以外は興行試合と成り下がった代表チームを本来の姿に戻すことが新たな舞台への準備へとなるように自分は思う。


・・何度目かの「6月の勝利の歌を忘れない」を見た後に。


■権力者の盛衰

Jリーグ創設やキャプテンズミッションなど素晴らしい功績を残している川淵氏の、現在の権限は甚大で協会内部では金正日並みの権力を有していると見て良い。
今では彼の失言が事実となり世間の流れを作るまでに至っている。

そういった中、彼に睨まれないように協会批判をあえて行わないジャーナリストが多い中(大多数か)今回の西部氏の発言は注目される。(彼は、最近自らJリーグサポを認め、サポの視点と視線でサッカーを語ろうと努力されている)

そして川淵氏が今後通るべき道は3つか 

1.このまま何も無かったように居座り再選される 
2.詫びを入れた上で権限を組織(下部)に委譲しあるべき姿に戻す 
3.次回の改選選挙への出馬を辞退し名誉と隠居の時間を楽しむ 

これまでの言動と彼の考え方からして1.を選択する確立が非常に高い。
世間はオシムさんへの期待感で溢れているだけに、川淵氏の戦略通りにしばらくは走りそうな予感がする。

さて、新しい舞台はできるのか?