ニッポン再建

その経緯はともかく、ドイツWC惨敗後の代表チームを預かることになったオシムさんの、言動ほど強烈なインプレッションを感じるものはない。そして彼には来日以来個人的にも常に興味を惹かれ続けてる。
新刊が出れば思わず手が出てしまうが、確かに本屋に行けばオシム本が大量に山積みされている。
サッカーの結果だけでなく多くの日本人が彼の言葉の奥底に常にメッセージ性を感じている。そしてその言葉には強い伝播性があるのだ。
例えがうまくないかも知れないが、時にはエキセントリックでさえあったトルシエ(98年10月〜02年6月)が日本サッカー界にとって若い教師のような存在であったとすれば、オシムさんは、父親であり人生の師のような存在であろうか。
■欧州組へのエール
日本経済新聞に、昨日より「オシムジャパン」と題して連載が始まった。(毎月第4金曜日連載)
オシムさんは「彼らの動向は毎試合チェックしている」と言うが、昨今は中村や高原、松井など欧州組がこれまでになく好調である。

「彼らが好調なのは私が代表に呼ばなくなったことも一因。呼ばないのは今の調子を維持してもらいたいから。」

メンバーを固定的にしつつ(熱発した選手まで使い続けた*1ジーコと単純に比較することさえおこがましいが、オシムさんは代表チームに召集してない選手のモチベーションさえ、「呼ばない」ことで高めている。なんというアンチノミー(二律背反)。
■日本らしく
03年ジェフの懇請を受け、「日本に来てサッカー観が変わった」というオシムさん。

「この国には結果だけにとらわれない文化がある。」
「日本には豊かであることを逆にコンプレックスに感じているサッカー関係者がいる。ハングリーでないと。でも、経済的に恵まれ、何でも選べる中からあえてプロを選んだ日本の選手にはサッカーをする喜びがある。そこは欧州のカネまみれのサッカーより、ずっといいと私は思う。」

選手たちに求めるサッカーもクラシカルなサッカーを遥かに超越している。
GKに11番目のフィールドプレーヤーの要素を強く要求し、そして本来守備的MFである今野や阿部にCBの役割も果たさせ*2DFとMFの従来の概念(垣根)を超えた選手起用など、従来の「横割り意識を壊す」選手起用上の積極性などはオシムさんの「日本を日本化する」サッカーへの道のひとつなのだろう。
いわく、「走らない選手は使わない」。
ジェフと同様、代表チームあっても勤勉な守りと、俊敏さを生かした奔放な攻めを共存させる為に「走る」ことを前提にするサッカー。
■DF陣の攻撃参加
日経には、ジーコオシムさんの戦術の大きな違いとオシムサッカーの最大の特徴をデータ化しDF陣の攻撃参加が驚異的に増えていることを図式化している。以下、数値だけ抜き取ると。

             ジーコJ    オシムJ
CBの敵陣でのプレー数  15.5    39.7
サイドバックの攻撃参加
    センタリング   9.4    13.4
    ドリブル     5.4     8.1
    シュート     1.7     2.0
ペネルティエリアサイド進入    12.4     15.7
      被進入        8.8     7.4

*データは1試合平均。ジーコジャパン全72試合オシムジャパンが全7試合。
オシムさんのチームではDF陣の攻め上がりが格段に増え、攻めあがった後のケアを他の選手が自在に動き臨機応変に支援している。
もちろんチーム全員の戦術的な共通理解がその底にあるのだろうが、確かに後ろの選手が前に出ることはリスクは大きいが、そのDF陣の上がりこそが自らフリーになりやすくチャンスが広がりやすいことを数値で表現している。
今年はアジア杯の年であるが、2月15日〜19日の千葉合宿の後、07年オシムジャパンの最初の相手がペルー代表(3月24日:日産スタジアム)と決まった。

*1:ジーコはドイツWC本番でさえいかにも体調不良で動けない俊輔を使い続けた。

*2:トルシエ中田浩二をDFラインに組み込んだ。