久藤清一がスパイクを脱ぐ日

◆「神を見た夜」から12年目
 1999年からJリーグが2部制へと移行するのに伴い,その前年の98年秋に『J1参入決定戦』が行われました。この試合は,NHKで全国中継され,とても注目されましたが,後々まで語り継がれるような歴史的なゲームとなりました。
 今から,12年前のことです。
 ゲームは,当時の福岡市長はじめ多くの市民が見守る中,博多の森球技場(現・レベルファイブスタジアム)で行われました。対戦相手は,川崎フロンターレ。かってないような,異様な雰囲気の中でゲームが始まりました。結果は一進一退の2−2のまま,延長戦に入りましたが,延長前半14分のフェルナンド選手のVゴールでアビスパ福岡が勝利しました。
 そのゲームを評して〜全国的に「神を見た夜」と表現されるような,壮絶極まる試合となりました。
 その時にピッチを駆け巡り,大活躍した選手が久藤清一でした。久藤は,前半24分に同点ゴールを決めるなど,アビスパ福岡のJ1残留に望みをつなぐ活躍を見せました。
 その後,第二戦は市原(現・千葉),第三戦は札幌と対戦しましたが,最後の最後で決勝に勝ち残り,結果としてチームが残留を果たしたのは,川崎戦の久藤選手の同点ゴールがあったからでした。

 あれから12年が経過します。


◆状況判断に優れた選手
 久藤選手は,兵庫県に生まれましたが,福岡市南区の横手中学を卒業し,太宰府市にある強豪校・筑陽学園高校サッカー部を経てジュビロ磐田へ入団しました。
 福岡にとっては,いわば地元出身のJリーガーともいえます。パス,ドリブルなど非常に高いスキルと戦術眼の良さで,アトランタ五輪の日本代表候補にも選出されました。ポジションは,サイド,センターのミッドフィルダー,ある時はサイドバックもこなすなど,なんでもこなせるユーティリティプレイヤーです。特に,状況判断に優れた稀有な選手といえます。

 その久藤選手が,明日,スパイクを脱ぎます。


◆優れた人間性
 2007年10月に,筑陽学園の吉浦先生(サッカー部監督)に,久藤選手について聞く機会がありました。同校の応接室で,先生は,熱く語りました。
 『当時のジュビロの厳しさは有名でしたが(当時のジュビロは,ブラジル代表キャプテンのドゥンガを中心に凄まじい練習をしていました。),ジュビロを選んだことが,彼にとってとても良かったと思います。』
 『真のユーティリティプレイヤーでもあるし,彼こそ,本物のプロフェッショナルな選手だと言えると思いますが,清一は威張らない,本当に謙虚さを持った選手です。また大変に後輩想いで,細やかな気遣いとかもできる男です。』
 『私が知る限り,彼ほど人間性が優れた選手はいません。』
 『彼は,選手一人ひとりのことが本当にわかる人間なので,将来,引退するようなことがあっても,良い指導者になる資質を持っていると思います。』


◆祝!400試合出場
 J1,223試合出場,J2,176試合出場。1994年8月20日,対ガンバ大阪戦で初出場して以来,アビスパ福岡,2010年度ホーム最終戦の出場で,Jリーグ400試合出場を果たし,久藤選手は「名蹴会」入りの資格を得ます。

 2009年のアビスパ福岡は,チーム結成以来,最低の戦績でした。リーグ優勝は無論,天皇杯優勝などの経験を持つ久藤にとって,2部リーグ11位の成績は屈辱的でもありました。長く酷使してきた膝の状態が思わしくなく,ベストなパフォーマンスを継続できなくなったシーズン終盤には,「引退」へと気持ちが大きく揺らいでいました。
 
 昨年の最終戦のことです。屈辱的な1年を送った2009年の,最後のゲーム後に私は以下のように書綴りました。
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・相手への強い当たり、気魄

・鬼気迫る鋭い出足

・早いボール回し

・ペナリティ付近でのワンツー

・後から地を這うような強烈なミドルパス

いずれも久藤が自ら実践して、選手たちとともに展開しました。

この夜だけは、高橋泰も岡本も、それ以外の選手も自分の持ち味を出し、楽しそうにプレーしていました。

DFの選手や前線の選手に的確に指示を出す久藤。

「どうすれば選手を使えるか」を熟知している久藤ならではのプレー。

全盛時代を髣髴させる出足とスピード。特に、前線へ猛烈なスピードでボールを追いかける姿には鬼気迫るものがありました。

センターに位置する彼自身の、2列目からGKに向って抜け出す守備は、FWの動きを助け、前線に一定の安定したリズムを与えました。

さて。

「神を見た夜」から何年が経つのでしょうか。

今も久藤清一のサッカーセンスは輝きを放ち続けています。

相手チームから見ればどうにもやっかいな存在。久藤を経由してボールが連動していく。

そんな彼には怪我がつきまといます。

彼の痛み、怪我との戦い。プレーできる状態まで昇り続けようとする努力。乗り越える困難。

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 11月27日のレベルファイブスタジアムは,久藤清一のホームでの引退試合の日でもあります。