したたかな新鮮力

[韓国代表ー日本代表]:大邸ワールドカップスタジアム
以下、雑感のみ。
■ゲームの入り方

到着した釜山は、27、8度。ゲームが行われる大邸(テグ)は、30度を少し越えた気温。
ここは山に囲まれた盆地で風が抜けず、真夏の暑い時期は40度近くになるという。日本でいえば夏の山梨や群馬のような気候か。

省エネサッカーをやることも当然。
怪我で離脱した田中達也(この日は私服でベンチの端に座って観戦*1)以外は、中国戦と同じメンバー。
前線に、玉田と巻のコンビ。中盤は、本山のトップ下に、村井、今野、阿部の3ボランチ気味。中央に今野。
DFは、茂庭、茶野、坪井と下がり気味の駒野で、ほぼ4バック状態。
キーパーは、自分としても一度見たかった土肥。

前半飛ばしすぎて後半バテてしまい、守勢に入った中国相手に中盤にスペースメイクができず横パスやバックパスばかりで批判を浴びた彼らのこの日のゲームの入り方に興味があった。
自分は、メインのアウェー側で見ていた。
肉眼でも持参したオペラグラスでも、前半は坪井、茶野らのデフェンス陣の動きが良く見てとれた。

完全アウェーの韓国代表への大歓声の中、日本代表は前半はとても守備的に入った。
駒野は右サイドのケアを丁寧に行い、ほとんどキャプテン坪井の隣で右ラインに蓋をしていた。
左の村井も決して無理して上がることはせず、韓国が右から(自陣から見て)の攻め手が多かったせいもあり、動きも丁寧で、守備面でキレ味鋭い動きを見せていた。初めて気がついたが、村井のポジショニングは中々良い。
茂庭も、全く無理せず、この日は中盤を通り抜かして前線に顔を出すこともなかった。独特の姿勢で、ノッシノッシと守備に汗をかいていた。
■前半はゼロで抑える
「前半にゼロで抑える」がこの日のキーワードだったと思う。

前列に近いシートだったので良く見えたが、彼らのその動きにも表情にも終始落ち着きが見て取れた。
善戦はしたものの、若い、未熟なサッカーをしてしまった中国戦をホテルの部屋で反省したのだろう。
それか、ジーコの指示があったのだろう。
よく見ればしたたかにゲームできている彼ら。

前半、危ない場面はあったが、土肥の動きが良いせいもあって、現場の雰囲気は、失点される雰囲気はなかった。

TVでは、落ち着きのない解説者や、お決まりのフレーズの叫びしか聞こえないだろうから、どう見えたのか知らないが。

戦力的にも新鮮な選手たちの顔は、とても落ち着き、互いの連携もとれ、周りに声をかけあい、ボランチも韓国の飛び込みのケア中心の動きで、現場はとてもいい”感じ”だった。
攻撃は、本山の個人技と、巻のポスト頼みで無理していなかった。玉田を含めたこの3人では、中々にボールは収まらない。
攻撃面では、阿部のセットプレーでの個人技と、本山の技術だけが頼りの前半だった。
それにしても、この日一番に目についたのが今野。
韓国の攻撃の芽を摘み取ろうとする今野の動きは、終始一貫、冴えを見せていた。

(写真:場内に映像を流すビジョンのミキサー)

*1:達也は、自分で歩いていました。TVで怪我のシーンを見た時は本当に心配しましたが。ご心配なく。彼、意外と早く復帰しますよ。

このメンバーで、韓国戦に何を求めているのか?

帰国しました。
時間ないので少しだけネット徘徊。*1
■韓国はてんやわんや

地元開催の韓国は、この大会、国を挙げて優勝に向かってる。おまけに、オランダ人監督のボンフレーレは以前から解任の話が沸き起こっている。
しかし、この大会、日本と同じく結果が出ない、2試合ともドロー。
これで日本戦に敗れれば最下位。
最下位となれば彼の解任は決定的となろう。いや、彼らは首を切るきっかけを探している。(この件に関しては後述します。)
となれば、得点差3以上の大差をつけて勝つしかない。
最初から、彼らが前がかりに来ることは目に見えている。韓国代表のピッチ上に立つメンバーが遮二無二、攻撃的に戦い、前半で1,2点取って勢いを増し自国の優勝への道筋を付けたいことは、子供だってわかることだ。

我が代表が前半からキチンと中盤を制し、流れるようなパス回しで。(TVゲームじゃあるまいし)韓国代表を翻弄し、韓国代表よりも数多くのシュートをし、あわよくば1点でも上げて。と期待するのは酷。

■韓国にはいつでも負けたくない

アウェーの、相手は韓国代表。
しかも、こちらのメンバーは大舞台に慣れない、これまでの控え主体の”新鮮力”メンバー。

この日の先発メンバーには自分が期待していたオガサがいない。彼不在の前線ではボールの収まりどころがない。

何が何でも、どんな内容のゲームをやってでも韓国には勝ちたいし、お尻でゴールしてでも勝ちたい。
どんなに内容が良くても、どんなに未来ある戦術的な立派なゲームをやったとしても韓国代表に負けたとしたら、そしたら悔しくて、悔しくて、寝れねえじゃん。

日本のピッチ上で戦う選手たちは、そんな、若くてギラつく韓国の攻撃陣を、まるで大人な態度で対処していたよ。
前半、中盤が前がかりになり、互いの打ち合いになれば。クボもヤナギもいない前線で、先制点が上がる保障はないし。それより後ろにスペースが空いてやられ放題。韓国代表の思う壺。
■決め手に欠く韓国代表

韓国代表は、攻撃に手数がかかり過ぎる。
イデアも乏しくて、ボールを支配しているようで、実は効果的なパス回しができていない。
彼らには、無理やりのシュートしかない。

これらのことは、ピッチ上の日本の若い選手たちには十分に伝わりわかっていたことと思う。
確かに、連携もまだ未成熟で、セカンドボールをことごとく拾われ、攻撃の機会を数多く相手に与えたことは事実。ピッチ上で試行錯誤を繰り返す彼らにはそれもまた覚悟の上。と言いたい程の落ち着き。
前半、現地のスタンドでは彼らの守りの頑張りに真摯に拍手していたし。歓声上げていました。経験ないのに「良くやってる」と。

サッカー狂いの娘に付き添いできた50代の隣のご婦人:「日本、攻められてばかりで、中々攻めれませんよね。大丈夫でしょうか。」
自分:「これで、いいのですよ。このまま無駄な攻撃続けたら、彼らは後半必ず疲れます。暑いし。」「そんなに多くないだろうけど、日本にも、チャンスが必ず来ます。」
「しっかり守って、いい感じですよね。」「新しい選手たちが、韓国相手に頑張ってますよね。」

これは、ハーフタイムの話。もちろん、TV画面で松木やセル爺が何を吼えていたのかは知らない。

*1:「代表のサッカーに一体何を求めるのか?」それこそ、千差万別、それぞれの自由。しかし、自由だけど。「半分寝てた」とか「食えねぇ」とか、少なくとも、ジーコへの嫌悪感だけで無為に時間を費やしてしまうのももったいなくないか。そうやって、幼稚なガキの如く、ヒネて06年までの人生の長い期間を無駄にすることになる。それはそれで構わないのだが。たしかに思い通りにはならないけれど、代表サッカーへの過剰な期待は、自ずと代表に選ばれた選手への過大な負担へと繋がる。ただこれだけは忘れちゃいけない。汗をかいて必死にボールを追う選手たちへのリスペクト。私は、密かにこの大会から06年ドイツモードに切り替えることにした。WCの期間は、夢中になって日本代表を応援したい。この8月からそれがスタートした。そして今は、韓国代表に勝って、しかも奴らをゼロで抑えたゲームに現地で立ち会えて非常に気分がよろしい。

中澤の、高くて強い存在感

■さて、後半
ハーフタイムに歌う気鋭の歌手の登場でスタンドは更にヒートアップ。煽り煽られホームの温度も熱くなる。
テーハミングッ!」の声が更に大きくなる。圧倒的なゴル裏の声援。

後半、開始早々に駒野のシュート気味の鋭いクロス。その後の5分位、村井が高めのクロス。この二人のボールの軌道が、後半の日本の攻撃の意思を表す。
その数分後に韓国がチャンスを作る。8キム・ドヒョンの強烈なミドル。落ち着いてるGK土肥が片手でクリア。
一進一退の攻防。

しかし、韓国の選手たちは疲れていた。
後半すぐに足が釣る選手たち。
ドリブルでよろける。足にきている。途端に運動量が落ちていく。
案の定だ。

後半10分過ぎだったと思う。(自分のメモは10分過ぎ。詳しくは時計を見れず)韓国、右サイドのクロスにDFのクリアが甘くこぼれたところを20イ・ドングク(韓国サポの彼への声援は非常に大きかった)の反転シュート。ゴール上。ここで坪井が倒れこむ。
ベンチを飛び出たドクターが治療するが両手で×印で、坪井アウト。
ベンチでは、大黒がひとり後半開始から熱心にアップしていたが、急遽入ったのは中澤だった。坪井アウト、中澤イン。ここでようやく3バックに。
途端にDFラインが上がったように見え、中澤の存在でDF陣に落ち着きが見える。
中澤は、誰よりも高くジャンプする。誰よりも玉際に強く動作も早い。彼の高くて強い存在感はピッチ全体を落ち着かせる。

中澤インの後、駒野、村井の位置が高くなる。日本は中盤を厚くし攻撃の陣形整う。
ベンチが動き始める。選手たちのアップが激しくなり、ベンチ采配に注目が集まる。

25分頃、疲れの目立つ本山アウト、小笠原イン!
待ってました。一番いい形になった。後ろに中澤、中央にオガサ。これで、前線にボールが収まるようになる。ボールが収まると駒野と村井が生きる。サイドの動きも激しくなる。
後は、大黒待ちだ。

ジーコには色々と問題は多いが、選手たちの息遣いを感じ取り相手チームのくたばり加減を読み取る目。そして早くも遅くもないタイミング。
遅いと言う人がいる。玉田の調子が今ひとつであったから、大黒インのタイミングは自分もそう感じたのだが。
ジーコの、このあたりのゲームを読む目やタイミングは、鋭いし当たっている事は確か。
後半、20分頃から韓国の攻撃には全然、鋭さが見れなくなった。
後半30分過ぎに両チームとも3人の交代枠を使い切る。
中澤ーオガサー大黒のDF、中盤、前線で主軸の役者が揃う。

後半40分前後、眼前で大きなチャンスが生まれる。駒野の突破の後だったと思う。日本のリズムが良くなる。良くしたのはオガサであるし、駒野であるし、阿部である。そして、巻である。
オガサがCKを蹴る。日本サポ、声を枯らして声援を送る。なんだかオガサも気合が入ってそう。鋭いキックから放たれた瞬間の爆発!歓喜
巻が韓国DFを連れツブれ役。中澤がネットを揺らす。
「巻選手を応援するツアー」の声たちは、中澤とともに懸命に仕事する巻にもエールを送る。

湧き上がる日本サポ。ウルトラスの中から4本の発煙筒が炊かれる。
そのオレンジ色に輝く炎と、立ち上る煙こそ、韓国代表との戦いでこそ相応しい。

ここでも、結果を出した中澤。
アジア杯を戦い、最終予選を戦い、名実とも日本代表の壁となった中澤は、まぎれもなく史上最高のディフェンスと言って良いだろう。

この大会こそが、06年(本番)へのスタート

8月9日、アジア最終予選の最終戦、イラン戦のメンバーが発表された。このゲームは1位決定戦でもある。
そしてイラン戦には、この東アジアに参加したメンバーがそのまま選出された。
当然のことといってよいだろう。

結果は北朝鮮に敗れ優勝できなかったが、この東アジア選手権大会は、”新鮮力”を確かめ、見極める大会にはなった。


私は、この大会こそが、06年へのスタートの大会だと思っている。
もちろんチームとして未成熟で、連携に数多くの小さな問題はあるが、また相変わらず戦術なき選手任せの面は強いが、期待していた駒野も、村井も、そして巻も、阿部も十分に機能したし、茂庭も茶野も良く守った。
彼らが、日本代表選手として世界と戦うに十分に値することが証明できた。

彼らは、06年ドイツ本番へのスタートラインに並ぶことができた。
ようやくに。

永い期間、不遇を囲った彼らのあきらめない精神が大きなチャンスを持ち込んだのだ。
同世代の松井、大久保も、それぞれのリーグで、同じように希望を捨てずに頑張ることだろう。
<追記>
駒野(もしくは加地)と村井のクロスを生かすには、FW巻は必要な存在ですな〜。
ヤナギの相棒には、「史上最強FW伝説」の隆行。寡黙なコンビ「クボ・ヤナギ」の久保。の2人の他に、巻もかなりよろしいのではないか。

*後で、韓国遠征の写真を「写真館」にアップします。